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京都地方裁判所 昭和62年(行ウ)8号 判決 1990年1月29日

京都市上京区上立売通六軒町西入上ル柏清盛町九九一番地の八

原告

脇田満彦

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地

被告

上京税務署長

道家人道

右指定代理人

下野恭裕

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告が、原告に対し昭和五九年一二月五日付でそれぞれなした、昭和五六年ないし昭和五八年分の所得税更正処分(ただし、裁決により一部とり消された後の処分)のうち、別表1の各年の確定申告欄に記載の金額を超える部分及びこれに対する過少申告加算加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

(一)  原告は、帯の賃織業を営む者であるが、昭和五六年ないし昭和五八年(以下本件係争各年という)の所得税の確定申告から裁決までの経緯とその内容は別表1に記載のとおりである(以下裁決により一部取り消された後の各更正処分を本件各処分という)。

(二)  しかし、本件各処分には以下の違法事由があり、取り消されるべきである。

(1) 本件各処分は、事前通知もなく調査理由の開示も行わない等違法な調査に基づくものである。

(2) 本件各処分は原告の所得を過大に認定した違法がある。

(三)  よつて、原告は、被告に対し、本件各処分のうち別表1の各年の確定申告欄記載の額を超える部分の取消を求める。

二  被告

1  答弁

(一) 請求原因(一)の事実をいずれも認める。

(二) 同(二)を争う。

2  被告の主張

(一) 本件課税処分の経緯

(1) 被告は、原告が提出した本件係争各年分の確定申告書に記載された所得金額が適正なものかどうかを確認するため、所属職員を原告の所得税調査に当たらせた。

(2) 右職員は、昭和五八年八月二日から昭和五九年一二月三日までの間に計八回にわたり、原告方に臨場するなどして原告と面接し、原告の申告に係る本件係争各年分の所得金額が適正なものであるかどうかにつき確認のため臨場した旨を告げて、帳簿書類の提示を求めた。しかし、原告は、準備未了をいい、あるいは調査に無関係な第三者の立会いを求めるなどして調査に協力する態度を見せなかつた。

(3) 以上の経緯により、被告は、やむを得ず、推計により算定した所得金額により、本件係争各年分の課税処分を行つた。

(二) 原告の事業所得金額

原告の本件係争各年分の事業所得金額は、別表2のとおりであり、その算定方法は次のとおりである。

(1) 売上金額

被告が把握し得た額である。

(2) 算出所得金額

右記の各売上金額に、別表3に記載の同業者の算出所得金額(売上金額から雇入給料賃金と一般経費の合計額を控除した金額)を売上金額で除した割合の平均値(以下算出所得率という)を乗じて算出した。

(3) 事業専従者控除額

原告が確定申告書に記載した原告の妻に係る額である。

原告の本件係争各年分の事業所得額は前示のとおりであるから、この範囲でなした本件各処分はいずれも適法である。

(三) 推計の合理性

被告は、本件係争各年分の事業所得金額を算定するに当たり、同業者の算出所得率を適用したが、その選定の経緯及びそれに基づく推計は、以下に述べるとおり合理的である。

(1) 大阪国税局長は、原告の事業所所在地を所轄する被告に対し、所得税の確定申告をしている者で、本件係争各年を通じて次の<1>ないし<9>の条件をすべて満たす者を抽出するよう通達指示したところ、被告が右抽出基準に従つて抽出した同業者の総数は別表3のとおり二八名であつた。

<1> 力織機で帯の賃織業を含んでいること。

<2> <1>以外の業種目を兼業していないこと。

<3> 青色申告を提出していること。

<4> 年間を通じて事業を継続して営んでいること。

<5> 事業所が自署管内にあること。

<6> 売上金額が五〇〇万円以上、一、〇〇〇万円未満であること。

売上金額の範囲は、被告が主張する原告の昭和五八年分の売上金額八二三万三、九七〇円の約一三〇パーセントを上限とし、昭和五六年分の売上金額六九六万八、三六〇円の約七〇パーセントを下限としたものである

<7> 妻のみを事業専従者として有していること。

<8> 雇人に対する給料賃金の支払いがあること。

<9> 対象年分の所得税について、不服申立又は訴訟が係属中でないこと。

(2) 右の基準は、原告の事業内容に基づき設定したものであり、当該基準により選定された同業者は、原告と業種業態及び事業規模において類似性があり、しかも青色申告者であるからその金額等の算出の根拠となつた資料はすべて正確なものであり、その同業者選定は、大阪国税局長の通達に基づき機械的になされたものであり、その選定に当たつて恣意の介入する余地はない。

(3) したがつて、被告が、右により選定された同業者の算出所得率の平均値を用いて原告の本件係争各年分の所得金額を推計したことは合理的である。

三  原告(被告の主張に対する認否)

(一)  被告の主張(一)に記載の事実を否認する。

(二)  同(二)に記載の事実のうち、売上金額及び事業専従者控除額を認め、その余を否認する。

(三)  同(三)を争う。

第三証拠

証拠に関する事項は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  被告は、請求原因(二)(1)において、原告のなした調査手続が事前通知もなく調査理由の開示も行わない違法があり、この違法な調査に基づく本件各処分もまた違法であると主張する。しかし、調査に先立ち通知を行なうこと、また、調査の理由の個別的、具体的な告知はいずれも法律上調査の要件とされているものではなく、本件全証拠をもつてしても本件の調査を社会通念上相当でないとする事情は認められないから、原告の主張は失当である。

三  成立に争いのない乙第一号証、証人林俊生の証言、弁論の全趣旨を総合すると、原告は被告の税務調査に対してその帳簿書類を提示せず、かつ、これに代わる資料を何ら示さなかつたことが明らかであるから、被告が原告の本件係争年分の所得税を算定するについて推計課税の方法による必要性が認められる。

四  被告の主張(三)の推計の合理性について検討するに、証人林俊生の証言により真正な成立が認められる乙第二、第三号証、同証人の証言、弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められ、他にこの認定を覆すに足る証拠がない。

1  大阪国税局長は、被告の主張2(三)のとおり通達指示し、被告は、右の抽出基準に従つて二八名の対象者(同業者)を抽出し、右の同業者について本件係争各年分の算出所得金額を調査した上、同業者の算出所得率を求め、別表3に記載の結果を得た。

2  右認定の事実によれば、同業者の算出所得率算出の対象となつた同業者の選定基準は、業種の同一性等の点で同業者の類似性を判別する要件としては合理的なものであり、そき抽出作業について被告あるいは大阪国税局長の恣意の介在する余地はみとめられず、かつ、右の調査の結果の数値は青色申告書に基づいておりその申告が確定していることから正確性が高く、その抽出数も同業者の個別性を平均化するに足るものということができる。したがつて、右同業者の算出所得率を基礎に原告の所得を推計することに合理性があるというべきである。

五  被告の主張(二)の原告の本件係争各年分の事業所得金額について検討する。

1  別表2(1)に記載の売上金額は本件係争各年分とも当事者間に争いがない。

2  算出所得金額

前記の売上金額に、前掲四の同業者の算出所得率の平均値(算出所得率)を本件係争各年別に乗じて計算すると、原告の算出所得金額は別表2<3>に記載のとおりとなる。

3  別表2<4>に記載の事業専従者控除額は本件係争各年分とも当事者間に争いがない。

したがつて、原告の本件係争各年分の事業所得金額は、前記の算出所得金額から事業専従者控除額を除いた額である別表2<5>に記載のとおりと認められる。

六  よつて、本件各処分は、いずれも右に認定の原告の本件係争各年分の事業所得金額の範囲内でなされた適法なものであつて、調査の違法ないし過大認定の違法をいう原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 菅英昇 裁判官 堀内照美)

別表1

課税の経緯

<省略>

別表2

原告の事業所得金額の計算

<省略>

別表3 同業者の算出所得率表

<省略>

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